認知症



認知症とはいったん獲得した知能が何らかの原因によって慢性的に低下した状態をいう。認知症は、脳の病的な変化によって神経細胞が正常老化で抜け落ちるのではなく、脳に病気が起こって神経細胞が異常に抜け落ちていく状態である。

そのために「年のせい」では起こらないようなひどい物忘れや判断力の低下を起こす。認知症による物忘れはど忘れではなく、あとになってもまったく思い出すことができない物忘れである。脳の病気が進むうちに記憶が薄れるばかりでなく、日時の見当も付かず、人の顔がわからなくなり、無意識にできていたはずの日常生活の動作も難しくなってくる。 認知症の原因となる疾患には大別すると脳細胞の変性が起こる変性疾患(アルツハイマー病、ピック病、パーキンソン病等)と、感染症による疾患(クロイツフェルトヤコブ病、AIDS、梅毒等)、また脳血管障害等のその他の疾患がある。アルツハイマー病は認知症の原因疾患の中で最も多いとされている。アルツハイマー型認知症は、脳細胞が特殊な変性を起こすため、脳の機能低下が起こり認知症が発生する疾患である。アルツハイマー型認知症における脳細胞の変性とは、脳の病理組織検査により確認される細胞の変化のことで、神経源線維変化および老人斑の出現が特徴的とされる。CTやMRIの画像所見では、病初期には目立った変化が見られないこともあるが、病状の進行とともに脳のびまん性の萎縮(全体的な萎縮)が見られるようになる。発症は突然ではなく潜在的に発症するといわれており、はじめのうちは記憶障害が少しずつ出現する。病状の進行に伴って徐々に症状も悪化し、運動障害その他の身体病状が顕在化し、やがて寝たきりの状態になる。脳血管性認知症では、症状として血管障害による運動障害が自覚症状として見られることがある。この際には運動機能全般が低下するというより、障害が起こった血管が関与する領域に障害が起こる。運動障害としては、血管障害の部位により、歩行障害が起こったり、言語障害が起こったりするが、脳血管性の認知症の症状も、運動障害と同様に病変の局在により、正常な領域と認知障害との両方が存在し「まだら痴呆」と呼ばれるような状態が出現することもある。脳血管性認知症の進行は階段状の悪化と病状の同様性が特徴的で、一方のアルツハイマー型認知症では症状が緩やかで連続的な進行が特徴的である。

 認知症には中核症状と、中核症状に伴い出現する周辺症状がある。中核症状とは、記憶障害と認知機能障害をいう。認知症の記憶障害は、「寸前に体験したことを忘れる」粗大な物忘れである。逆行性の記憶障害で、最近の出来事は覚えられないが、遠い昔の出来事については記憶が残されている。認知症の進行に伴い、物忘れをしているという自覚がなくなり、やがて、遠い昔の記憶も失われる。認知機能障害には、判断力の低下、失行、見当識障害、実行機能障害、失語などがある。周辺症状は、中核症状のために認知症高齢者の日常生活行動場面に出現するもので、例えば、自発的な行動の減少、同じことを何度も繰り返し聞く、自分の財布や貯金通帳など大切なものを片付けたり、置いたりした場所を忘れて、身近な人に盗まれたという「もの取られ妄想」、徘徊や異食、不潔行為などがある。

 認知症高齢者のケアに携わる場合に最も気をつけたいことは、その自尊心をむやみに傷つけないことである。認知症高齢者は、寸前の行動を覚えていない場合があり、叱られた理由がわからないが、叱られたときの屈辱感は残る。そういった認知症という特有な状況の中で生活していることを理解して、失敗しても、叱らない、否定しない、訂正しない、説得しない、理屈攻めにしないことが大切である。また、認知症高齢者の話は、事実でなくても一生懸命話している高齢者の気持ちを受け止めることが大切である。認知症高齢者の「虚構の世界」の話に合わせることは、こちらも「嘘」を言っているようで抵抗があるという家族やスタッフがいるが、それを訂正、説得して認知症高齢者を混乱させることは好ましくないことである。「嘘」を言うのではなく、認知症高齢者とお芝居をしていると考えればよい。このときに大切なことは、認知症高齢者が主役で、ケアをする側は脇役を演じることを忘れないようにすることである。また、認知症高齢者は病状の進行とともに、基本的な日常生活を送ることが困難になるため、事故を防止するよう環境を整えることも重要である。しかし、事故を防ごうとするあまり、何もかも取り上げてしまうことは好ましくない。人間らしい感情を活かせるよう生活に彩りを添えながら、危険のみを排除するよう心がけることが重要である。





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