両親がパチンコ屋の駐車場でエンジンを切り、幼児を社内に放置させたまま熱射病で死亡させた事件や、内縁の夫が子供に暴力をふるっているのを見て見ぬふりをして死亡させた事件など、児童虐待に関する事件は次々と起こっている。こうした児童虐待の現状について考察する前に、まず児童虐待とは何かという定義を明らかにしておきたい。
「児童虐待」とは「児童虐待の防止等に関する法律」において「保護者(親権を行なう者、未成年後見人その他の者で児童を監護する者をいう)が、その監護する児童(18歳に満たない者)に対し、次に掲げる行為をすること」と定義されている。そして「次に掲げる行為」とは以下のものを指す。
身体的虐待
児童の体に外傷が生じ、または生じる恐れのある暴行を加えること。例えば一方的に暴力を振るう、食事を与えない、冬に戸外に締め出す、部屋に閉じ込める等
性的虐待
児童にわいせつ行為をすること。または児童を性的対象にさせたり見せること。例えば子供への性的暴力、自らの性器を見せたり、性交を見せ付けたり、強要する等
ネグレクト(育児放棄、監護放棄)
児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食、もしくは長時間の放置、その他保護者としての監護を著しく怠ること。例えば病気になっても病院を受診させない、乳幼児を暑い日差しの当たる車内へ放置、食事を与えない、下着など不潔なまま放置する等
心理的虐待
児童に著しい心理的外傷を与える言動を行なうこと。心理的外傷は、児童の健全な発育を阻害し、場合によっては心理的外傷後ストレス障害(PTSD)などの症状を生ぜしめるため禁じられている。例えば言葉による暴力、一方的な恫喝無視や拒否、自尊心を踏みにじる等
こうした児童虐待は年々増加傾向にある。児童相談所における虐待相談の対応件数を見ると、平成2年度では1,100件であったのが、10年後の平成12年度では17,725件、平成17年度では34,472件となっている。
また、平成17年度のデータにおいて主たる虐待の種類を分類した場合、身体的虐待がもっとも多く全体の42.7%、次いでネグレクト37.5%、心理的虐待16.8%、性的虐待3.1%の順となっている。
次に主たる虐待者としては、実母が61.1%と最も多く、次いで実父が23.1%となっており、実父母で全体の84.2%を占めている。
最後に被虐待児童の年齢別内訳であるが、0〜3歳未満が18.5%、3歳〜学齢前児童が25.5%、小学生37.8%、中学生13.4%となっており、乳幼児が全体の45%近くを占めている。
児童虐待は種々の心理・社会的要因が複雑に絡んで発生する極めて具体的、個別的な事象であるが、これが増加している背景には都市化、核家族化、少子化といった現代的な社会状況が存在している。少子社会の中で生まれ育ってきた現在の若い親にとって、幼いときから子育てを手伝ったり、他人の子育てを身近に観察するなどの機会が乏しくなっており、育児に関する生きた技術を自然に習得することが困難となっている。加えて都市化、核家族化の進行にともない、これらの親を支える者も身近にいなくなっている。つまり孤立無援の中でストレスを抱え込まざるを得ない状況が一般化しているのである。
日本では「子供は親が育てるもの」という意識が根強いため、虐待の問題が発覚しにくい。また、発覚したときには重大な事態に陥っていることも少なくない。こうした意識を変革し「子供は社会が育てるもの」として、警察・病院・行政・各種民間団体が一丸となって問題解決に取り組む姿勢が必要であると考える。