アドボカシーとは本来「擁護」や「支持」「唱道」等の意味を持つ言葉である。社会福祉におけるアドボカシーの成立は1960年代のアメリカの公民権運動にさかのぼる。1960年代のアメリカは、繁栄の陰に隠された貧困と人権問題の実態が表面化してきた時代であり、貧困と人種差別の撤廃を求める黒人たちの公民権運動が展開された。公民権運動とは、@貧困問題は黒人や少数民族に対する人種差別から発しているという認識を広めるとともに、A差別を受けてきた人たち自らが立ち上がり、結束して問題の実態の明確化と要求実現に向けて運動を起こしていったこと、そしてそれにより B貧困問題の解決の国家責任を明らかにした点で非常に重要な意義があった。
この公民権運動の中、人種問題を始はじめ民主的改革に積極的な姿勢を示したJケネディ大統領が暗殺される事件が起き、その後、ジョンソン大統領は国家として貧困撲滅に積極的に取り組むことを示す「貧困戦争(War on Poverty)」を布告した。
その結果、公的な社会福祉サービスの拡大と充実、法の下での平等が重視され、マンパワーとしての社会福祉援助者の人数の増加が必要とされる一方、問題に適正に対応できる社会福祉援助者の資質の向上が求められるのも当然のことであった。とりわけ地域活動事業の発展とそこにおける住民の主体的参加が重視されるようになり、これまでのような個人的問題解決を中心とした社会福祉援助の限界に対して、全国福祉権機構など問題の当事者たちから厳しい批判の目が向けられた。それに対してNASW(全米ソーシャルワーカー協会)は、個別援助技術、集団援助技術、地域援助技術に共通して、社会変革に関わる社会福祉援助者の新しい役割として「アドボカシー(権利擁護)」の役割を打ち出したのである。
現在の社会福祉における「アドボカシー」は権利の代弁、擁護のことを指し、例えば、自ら自己の権利を充分に行使することのできない終末期の患者や、障害者、アルツハイマー病の患者などの権利を代弁することは挙げられる。
また、ソーシャルワーカーが特定のニーズを持つ集団の利益を擁護していくことを「コーズ・アドボカシー」、クライエントがソーシャルワーカーの支援を受け、ニーズ充足を求めて行動し、自らの権利を擁護することを「ケース・アドボカシー」という。
エンパワメントはアドボカシーと同様に、1960年代のアメリカ公民権運動やブラックパワー運動にその源をみることができる。「黒人革命時代」を背景とするアフリカ系アメリカ人への偏見や差別を撤廃していくためにエンパワメントは導入された。
社会福祉におけるエンパワメントは、社会弱者や被差別者が自分自身の置かれている差別構造や抑圧されている要因に気づき、その状況を変革していく方法や自信・自己決定力を回復・強化するように援助することである。「庇護」や「救済」ではなく本来の権利や人格を保つために力を付与するという考え方に沿って支援を行なう。
こうしたエンパワメントに基づくソーシャルワークは特有の視点や立場をとりながら次のような原則に立って実践を展開する。@ソーシャルワーカーとクライエントは生活を破壊する全ての圧力に挑戦しなければならない。Aソーシャルワーカーは圧力の状態を全体論的に把握しなければならない。Bクライエント自身でパワーは補強すべきであり、ワーカーは側面的援助者(パートナー)に徹しなければならない。C共通の立場を共有するクライエントは相互にパワーを増強していくことが必要である。Dソーシャルワーカーとクライエントは対等な関係を確立しなければならない。Eソーシャルワーカーはクライエントが自分の言葉で語るよう励まさなければならない。Fワーカーは一貫してクライエントが圧力を受ける被害者としてではなく、圧力に打ち勝っていくものとみなさなければならない。Gソーシャルワーカーは一貫して、社会変革を中心に据えていかなければならない。
以上の原則からエンパワメント志向のソーシャルワーク実践過程は、クライエントとソーシャルワーカーの協働過程ということができる。ソーシャルワーカーは援助過程にクライエントが積極的に課題に取り組めるように工夫し、クライエントが達成感や自信をもつことができるような方向へ向けて援助を展開することが重要である。