ティー・ブレイク――壊すのか休むのか
最近、妹が変わったと思う。
いつもの紅茶の時間、主がカップを口から離すや否や呟いた言葉に、従者は首をかしげた。
「そうですか? 私にはいつもどおりに見えますが」
「いつもどおりではあるわ」
表情は無いに等しいが、どことなく哀愁の漂う風に返す。
主は同然の如く染み一つ無い白いクロスの掛かったテーブルと、彫りの入った古びた木の椅子に掛けている。
従者は同然の如く側に佇み、役目を一時失った銀トレイを小脇に抱えている。
だが、場所が異様だった。
「あはははははは! 霊夢! 魔理沙! もっと相手してよー!」
赤が眩しい少女が、だだっ広い空間を縦横無尽に駆ける。
室内であるはずだが天も、壁も、床さえも見えない漆黒に囲まれ、重力を無視してそれを切る。
「さ、流石に……ぜえ、二人じゃきついぜ……」
少し離れたところで、これまた重力を無視した箒に掴まったまま、闇に溶けんとする黒い少女は喘ぐ。
外からわかる疲労の色を浮かべ、空いた片手でその汗を拭った。
「そもそもあんたが、ぜえ、鬼ごっこなんて、ぜえ、薦めるからでしょ?」
さらに離れて、紅白の少女が同じく息を上げている。
赤い少女と同じく独力で浮いてはいるが少し足元、いや全身がおぼつかない。
その三人を見つめたまま、主と従者は無いはずの床に存在した。
少し角度を変えればもちろん椅子やテーブルやほか二名の足の裏が見える。
だがここにいる誰も驚かない。空間を伸び縮み固定変形させるなど、従者にはたやすいことだからだ。
「フラン、ほどほどになさい」
聞く人が聞かなければ愛情など微塵も感じない言い様だったが、赤い少女は満面の笑みで頷いた。
「うん、わかってる、お姉さま!」
その答えに満足したように、緋色の少女はカップを傾ける。
当然、非難が二つ飛ぶ。
「ちょ、あんた無責任よ!?」
「吸血鬼同士で仲良くやってほしいぜ!」
いつもの半分まで傾いたところで、主はカップを戻した。
紅く染まった唇を気にせず、また表情は無いまま、しれっと返す。
「お茶の時間を邪魔しないで」
再度非難を飛ばそうとして、勘のいい巫女と目ざとい魔法使いは風の流れの変化を感じ取った。
彼女らの前に居るのは少女ではない。猛獣や猛禽でもない。悪魔なのだ。
一切の手加減無く、そして無駄な時間無く、同時に魔力を凝縮させる。
「夢想封印!」
「スターダストレヴァリエ!」
巨大な光が少女たちから放たれる。光と光、そして向かい来る光が衝突した。
二つの光は決して相手の光に抗おうとはしない。一方は無数の球、一方は無数の星屑へ分解される。
それらはまるで壁のように二人と一人を遮り、そしてその壁に沿って残った巨大な光はあらぬ方向へ飛んでいった。
だが二人はそれを見届けることなく、何故か180度反転し同様に魔力を放つ。
「ははっ!」
いつの間にか背後から肉薄していた赤い影は愉快そうな声を一瞬上げ、文字通り霧散した。
ある程度離れた位置で霧たちは集合し、再び赤い少女の像を結ぶ。
「もうちょっとだったんだけどなぁ」
軽く舌打ちする。そこには何の邪気も無い。いたずらに失敗した少女の如く。
対峙している二人からすれば、持て余す膂力に首など軽く吹き飛ばされそうでとんでもない話ではあるが。
どっと溢れ出した冷や汗を、これまた同時に袖で拭った。
遠くで見つめる緋色の少女は、中身の尽きたカップをゆっくりと受け皿へ置いた。
すぐさま従者によって注がれる赤い液体。注がれた液体は揺れ、凝固した赤黒い塊を撫でる。
「やっぱり、変わった」
聡い従者は少し思い当たることがあった。
「……ええ。変わりましたね」
薄く閉じた目の向こうで、赤と黒と紅白はまた運動を始める。
緋色の少女は彼女を妹と呼び、赤い少女は彼女を姉と呼ぶ。
ただそれだけ。彼女はここ495年ほど、己の妹に愛着、いや関心さえ覚えた覚えはなかった。
敢えて挙げるとするならば畏怖……それがしっくりくるだろうか。
破壊の能力。
彼女が自らの運命を操る能力を以ってして、抑え込むことのできなかった能力。
あくまで経験則だが、どうやら知覚の範疇に制限されるらしい。だが、その程度の縛りでしかない。
彼女が運命を操っていることを「知覚した」瞬間、操られた運命を文字通り「破壊」した。
だから知覚できないもので彼女を幽閉した。昔は――昔は忘れたが、今は空間という定義の出来ないもので。
それはどこまで言っても妹への畏怖のごまかしに過ぎなかった。忘れたころに、まるで悪夢のようにフラッシュバックする。
――だが、今はどうだ?
彼女が新たに出会った人間は、自分を超える可能性を持っていた。
いや、可能性どころか能力を。彼女を超え、あまつさえ彼女の妹すら屈服させてしまった。
人間たちは定期的に遊びに来る。何が楽しいのか、しばしば妹にも会いに行く。
散々暴れたあげく、人の茶の時間に勝手に参加し、従者にもてなしを要求し、同居人の本を奪ってゆく。
だが、いつしか緋色の少女は、自らが夢見をすることに気づいた。
夢と言ってもよい夢だ悪夢だでなく、不安も心配もない世界でまどろむだけのものではあるが。
しかし確実に、彼女は今妹への畏怖を欠片も感じることはない。
あれだけ近くで茶を飲もうとも、自らが破壊されるような被害妄想に襲われることはない。
日々を自分のためだけに淡々と過ごす彼女にとって、それは途方もない変化に感じられた。
「もしかしたら」
従者の言葉は、少し回想に耽っていた主を目覚めさせた。
何も返さず、その続きに耳を凝らす。
「お嬢様も、やはり変わられたのかもしれません」
少し意地の悪い顔だった。
言い返すのも億劫で、そしてどこか当たっている気がして、そのまま口をつぐんだ。
自分も変わったのかもしれない。
そういえば、人はある時期を過ぎると変わるのだと本の虫――もとい同居人は言っていた。
シシュンキだのニジセイチョウだの、よくわからない言葉を並べていたが、雰囲気は伝わった。
もしかしたら吸血鬼も、あと500年もすればお互い気持ちが変化していたのかもしれない。
ただ、人間という要素がいい刺激になり、それを前倒ししてくれたのか。
そう思うと、彼女は無性にあのカトンボのように飛び交う人間たちに感謝したい気になった。
注がれた紅茶を彼女にあるまじき行儀悪い一気飲みで流し込むと、手で口を拭う。
突然の主人の奇行に、従者は目を丸くする。
それを気にした風もなく、少女は薄く笑みを浮かべた。
「遊んでくるわ、咲夜」
しばしの間があって、ようやく理解した従者はこれまた普段通りでない笑みをした。
「ほどほどにですよ、お嬢様」
嫁カップ支援。ついでに姉支援。
昔は自分もショートストーリーなるものを手がけていましたが、あまりに才能がないため最近はあまり書いた覚えはありません。
一番最近のは……R18だったかな(こいつ最低だな
本編の設定を踏襲しつつ自分の解釈を加えてはみたものの、意味不明だなこれは……
リハビリ兼ねたので短い、何がしたいのか定まってない、そもそも文章が汚いの三重苦。ダメだこいつ、早くなn(ry
時間は掛かるけど本人にとっては楽しいので、お目汚しでなければまた書くかも。
関係ないけど緋色の少女って変だよね。けどピンク色とか桃色じゃ威厳がないし……
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