ドイツ第三帝国海軍 艦隊型駆逐艦Deutsches drittes Reich Marineblauer Zerstoerer Z1 classe

【 Z 1 級 】






Z1
"レーベレヒト・マース"
基準排水量 2,171t 起工 1934年10月10日
全長×全幅 119m × 11.3m 竣工 1937年1月14日
喫水 3.8m 造船所ドイッチェ・ヴェルケ社(キール)
機関出力/最大速力 70,000馬力/38ノット 搭載燃料
航続力
重油758t
19ノットで1,900浬
兵装 45口径12.7cm単装砲×5基
G7a 53.3cm4連装魚雷発射管×2基
SK C/30 83口径37mm連装機関砲×2基
SK C/30 65口径20mm単装機関砲×6基
機雷60発
同型艦(計16隻) Z1 Leberecht Maass レーベレヒト・マース
Z2 Georg Thiele ゲオルク・ティーレ
Z3 Max Schultz マックス・シュルツ
Z4 Richard Beitzen リヒャルト・バイツェン
Z5 Paul Jakobi パウル・ヤコビ
Z6 Theodor Riedel テオドール・リーデル
Z7 Hermann Schoemann ヘルマン・シェーマン
Z8 Bruno Heinemann ブルーノ・ハイネマン
Z9 Wolfgang Zenker ヴォルフガンク・ツェンカー
Z10 Hans Lody ハンス・ローディ
Z11 Bernd von Arnim ベルント・フォン・アルニム
Z12 Erich Giese エーリヒ・ギーゼ
Z13 Erich Koellner エーリヒ・ケルナー
Z14 Friedrich Ihn フリードリヒ・イーン
Z15 Erich Steinbrinck エーリヒ・シュタインブリンク
Z16 Friedrich Eckoldt フリードリヒ・エッコルト
乗員325名


 1930年代前半、ドイツ第三帝国海軍は小型艦戦力として共和国海軍時代に建造された23型水雷艇「メーヴェ」、24型水雷艇「ヴォルフ」を保有していたがこれらの艦はもともと第一次大戦型のデザインを基調としたものであり、とてもではないが仮想敵国たるフランスの大型駆逐艦やイギリスの標準型駆逐艦と渡り合えるとは考えられなかった。
 1934年、初の駆逐艦新造計画がまとまり、仮想敵国の駆逐艦を牽制できる大型重兵装駆逐艦の建造が開始される。これが第二次世界大戦においてドイツ海軍の主力となる34/34A型駆逐艦―――Z1"レーベレヒト・マース"級のはじまりであった。
 基準排水量2000トンを超える大型の船体に、5門の12.7cm単装砲を背負い式に配置、魚雷発射管は前級より2門増しの4連装2基8門にまで増強され、同時期の列強駆逐艦と比較しても遜色ない能力を有している。最大速力に至っては38ノットと、快速で知られる日本の神風級や島風級に匹敵する数値となっている。しかしこれはのちの実戦でドイツ駆逐艦を内側から苦しめる大きな要因となる高圧蒸気缶の採用によって達成されたものであり、シャルンホルストなどでもしばしば見られたこの類の不具合は、艦船勤務に当たる全海軍将兵にとっての災厄の種だった。
 機構的に脆弱性のある機関は頻繁にトラブルを起こし、正規の手順を踏まえて運用された場合でも常時パルプ、ジョイント、シーリングやパッキングが劣化、弛緩して艦長の頭を悩ませ、敵勢力下での作戦中に缶破裂で艦の行き足を止めるのだ。開戦時、ドイツ駆逐艦の数は22隻であったが、これはまったくもって書類上だけの話であり、実際に作戦できるのはその半分以下というのが実情であった。
 こんな話がある。

 1939年12月6日、3隻のドイツ駆逐艦は英国沿岸における機雷敷設作戦に出撃した。2隻が敷設を行なっている間にもう1隻が警戒に当たる手筈だ。出発は正午。夜間のうちに作戦を終え、朝日が昇る前に危険な敵勢力下から離脱する。攻勢機雷敷設作戦の一環だ。
 しかし18時ごろ、敷設に当たるはずの1隻が機関損傷を起こして戦線を離脱する。名前はアルニム。Z11"ベルント・フォン・アルニム"。損傷原因は缶パイプの破裂という高圧機関の初期不良だった。残されたZ10"ハンス・ローディ"とZ12"エーリヒ・ギーゼ"は2隻だけで作戦を遂行することになった。使用できるのはギーゼに積んだ76個の機雷のみ。本来ならば、アルニムの機雷もばら撒いてより多くの英国船を海底へ転属させられるはずなのに。
 しかも投下した機雷のうちのひとつが妙な角度で接地したらしく、爆発してしまった。夜闇に爆発の閃光はよく目立つ。たちまち周囲は騒然となった。幸いだったのは敵が空襲だと誤解したことだ。その隙を利用して2隻の駆逐艦は戦場離脱を図る。無灯火の英駆逐艦と遭遇するも奇襲に成功。雷撃で駆逐艦1隻を撃沈し、部隊は広い大洋へ脱出する・・・・・・。

 このときは大きな被害にならなかったが、それでも機関損傷は艦の命運を左右する事態に繋がりかねない。それが敵地であればなおのこと。そして天候が悪ければ、悲運の確率はさらに上昇する。

 1939年10月28日がそれだった。
 その日、Z3"マックス・シュルツ"はノルウェー沿岸で僚艦と共に作戦することになっていた。しかし天候はひどく荒れていた。北東から強風が吹きつけてくる。空中偵察は不可能。作戦中止。艦は帰路に着く。そしてそれが起きた。
 まず主給水ポンプが駄目になった。二つの缶に水を供給するポンプだ。機関兵曹が補助ポンプに飛びついたが、タービンに海水が入っており破裂。機関兵曹は高圧蒸気と破片を浴びて死亡してしまった。
 さらに閉めなかった排水ポンプから無人となった缶室に水が浸入、天井までのぼっていく。艦が傾くたびに溜まった水が跳ね、配電盤に当たってはショートする。排水ポンプは停止。発電機2基がショートのおかげで使用不能になり、電流が切れて電話が通じなくなる。
 第二缶室では第一缶室の爆発の影響で給水ができなくなり、釜を動かすのに必要な水圧が下がっていく。普通なら70気圧の蒸気で動くのだが、35気圧に下がってしまい、火を落とさざるを得なくなる。残りの缶の圧力では、補助装置を作動させるので精一杯だ。
 22時10分。風力9。荒海。全缶停止。―――操艦不能。
 艦は波にもまれ、傾きながら流されていく。止めることはできなかった。錨をおろそうとしても、揚錨機が動かない。艦は傾きながら流される。友軍の機雷原に向かって。


 結論から述べるなら、Z3"マックス・シュルツ"は助かった。
 22時40分、名人機関兵曹長の手によって復活を果たした第三缶室のおかげで右舷機関が再稼動、のちに速力17ノットまで復旧し、シュルツは沈没を免れたのだ。
 こうした一連の機関不良のおかげで、駆逐艦の6基の高圧缶のうちの1基が駄目になったぐらいでは大した騒ぎは起こらなかった。ある機関兵がいうには、「缶への蒸気を止め、20分間冷たい空気を入れる。その後、一人が厚い皮服を着て潜り込み、破裂した管をはずして修繕する。うまくいけば2〜3時間で復旧する」のだそうだ。
 こうした機関員の努力の賜物もあり、機関損傷が原因で沈没する駆逐艦はなかった。特に駆逐艦といえども数少ない貴重な戦闘艦であったドイツ海軍にとって、これは幸運と称すべきことであったろう。しかも1939〜40年にかけて11回行なわれた駆逐艦による攻勢機雷敷設作戦であげた戦果は、計128隻、42万9899トン。ドイツ駆逐艦隊が誇るべきこの大戦果は、ただ1隻の犠牲も出さずに達成されたのだった。
 しかしそれからまもない1940年2月22日。
 ドイツ海軍は初めて駆逐艦を喪失する。レーベレヒト・マースを撃沈したのは双発の爆撃機。第26爆撃航空団第4中隊所属。ハインケルHe-111。友軍機による爆撃だった。。
 ヴィーキンガーと呼ばれるトロール船拿捕作戦に従事したマース以下の駆逐艦群とHe-111だったが、事前連絡の不徹底と夜間という悪条件が重なり、互いに相手を敵と誤認、He-111は50kg爆弾で、駆逐艦は20mm機関砲で応戦した。
 マースは爆弾を艦中央部に受けて沈没。さらにこれを潜水艦の襲撃と誤認した駆逐隊は海域を迷走。混乱の最中でさらにマックス・シュルツが爆発した。機雷に触れたのか、あるいはHe-111の再攻撃で被弾したのか、これは定かではない。
 ともかくこの日だけで、しかもたった1機のHe-111による爆撃だけで2隻の駆逐艦と578名もの将兵が失われたのは大きな痛手であった。損害皆無で英沿岸航路に打撃を与え続けてきた駆逐艦部隊のこの悲劇に、アドルフ・ヒトラー総統は烈火の如く怒ったという。

 この後、1940年中にドイツ駆逐艦は第二次ナルヴィク海戦などでその大多数を喪失。その中には同級のZ2"ゲオルク・ティーレ"、Z9"ヴォルフガンク・ツェンカー"、Z11"アルニム"、Z12"ギーゼ"、Z13"エーリヒ・ケルナー"も含まれていた。
 同級艦多数を失ったZ1クラスであったが、同海戦によって後継艦Z17級の大半が戦没したこともあり、残存艦艇は航洋性に劣るZ23級らと共にドイツ駆逐艦の主力部隊として大戦を戦い抜くことになる。
 戦後まで生き延びていた6隻(Z4"リヒャルト・バイツェン"、Z5"パウル・ヤコビ"、Z6"テオドール・リーデル"、Z10"ハンス・ローディ"、Z14"フリードリヒ・イーン"、Z15"エーリヒ・シュタインブリンク")は英仏ソに引き渡され、それぞれ各種試験や実戦部隊配備とされるなど数奇な運命をたどったのち、スクラップとして解体処分された。    




写真:"Maas-1"
参考:大日本絵画社 「第二次大戦駆逐艦総覧」
中央公論新社 「呪われた海」






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