小説 鋼鉄の咆哮
【 夢の終わりに 】
エピローグ
光の残滓が、海面を覆っていた。
吹き付ける風が中空の輝きにまとわりついて、瞬間だけ光を浮かせた後に水面へと落ちていく。
今は輝きの大半を失った天上の光が、超兵器と呼ばれていたものの残骸を照らしている。
最後に発生した爆発の原因が何だったのか、その答えは分からないままだった。
新型兵器にありがちな誤作動だったか、あるいは『暴君』のモジュールが見せたような暴走だったか、あるいはそれまでの超兵器同士の戦闘で不具合が発生して、その力を自分に向けたのか・・・・・・まあ、これらのうちのどれかなのでしょう。
護衛艦での別れ際―――オペレーター・リンは、いつもの調子でそういった。
―――大事なことは。
これで全てが終わったということなのです。この鋼鉄の悪夢に囚われていた世界がその夢に打ち勝ち、超兵器との戦いが終わったということなのです。
この戦争もまもなく終わりを迎えるでしょう。最後の超兵器さえ破壊してしまえば、あとは本土を制圧して、超兵器技術を抹消するだけですから。
それは口にするほど簡単なことではないだろう。
一度存在したものの痕跡を消し去ることなど不可能だ。一度生み出された水がどんな高熱に晒されたとしても―――水が蒸発して、この目に捉えることができなくなったとしても―――、その存在が液体から気体に、そして気体からまた液体に姿を変えて有り続けるように、超兵器の建造技術も、様々な形に分化しつつ生き延びていくはずだ。
そしていつか、あの台湾沖事件のように、何らかの形でその反動が噴き出してくることになる。
どんなものも、それを止めることはできない。まるで定められたかのように意識を持ったその流れを止めることなどできはしない。
あるいはそれが、運命と呼ばれるものなのかもしれない。
しかし。
しかしそれでも、かつて超兵器と呼ばれた存在は、一度は姿を消すことになる。
少なくとも今しばらくの間、あの恐るべき兵器が祖国の世界に現れることはないだろう。
自分はそれを見届けた。
超兵器という、一度はこの現実に存在することを許された夢の結末を、見届けた。
あるいは。
あるいはこれが、この夢の結末を見届けること自体が、自分に課せられた役目だったのかもしれないな。
去来したその思いを抱きながら、南雲忠一は後ろを振り返った。
あの護衛艦を離れてからまだ少ししか経っていないのに、故郷を離れるような感情を覚えるのは、異界に関わりすぎた証だろうか。
本来なら、あのハワイ作戦で全てが始まり、これとは全く違った形で結末を迎えたはずの世界と、無人戦闘艦計画を実現し、超兵器という夢の化物を誕生させた異界。
―――結局のところ。
あの可愛げのない、皮肉屋の少年はいった。自分の世界だけでも手一杯なのに、他の世界にまで手を伸ばしたところで、我々の手に負えるはずがないんです。
―――そんないびつで歪んだ世界は・・・・・・誰も求めていませんよ。
そう言葉を残して、オペレーターは南雲に別れを告げた。
・・・・・・。
光が見える。
超兵器が生み出した、祖国へと繋がる不思議な道だ。
全ての超兵器機関が失われた今、光のゲートはこれが最後のものになる。
南雲を乗せた内火艇は、その光の輪を抜けようとしていた。
超兵器。
ただ一隻で一個艦隊に匹敵するといわれた、究極の―――幻の戦闘艦。
ラ・プラタ沖から始まり、異界の戦いで幕を閉じるこれが・・・・・・超兵器の伝説だ。
超兵器。
我々の持つ技術力では製造不可能な、異界の艦。
この現実に存在することを許された、ひとつの、夢。
さて、その夢の結末をどうやって伝えていけばいいものやら・・・・・・。
腕を組み、額に眉を寄せたまま考えを続けていた南雲の体は、やがて光に呑まれて消えていった。
小説・鋼鉄の咆哮 了
小説・鋼鉄の咆哮トップページ
トップに戻る