超兵器。
ただ一隻で一個艦隊に匹敵する能力を持つといわれる究極の戦闘艦。
現在の技術力では製造不可能な動力機関を搭載し、通常兵器では絶対にあり得ない転移能力を併せ持つ。

ラ・プラタ沖。ハワイ。マーシャル。グァム。そしてサイパン。
こちらの世界で超兵器が猛威を振るったのは、確認されているだけでも5回に及ぶ。
ハワイ沖では超兵器爆撃機が一個機動部隊を壊滅させ、
グァムとサイパンでは『暴君』が敵味方を問わず、多数の艦艇と多くの将兵を冥府に送り込んだ。



  『超兵器』
それは、本来この世界にあるはずのない艦。恐るべき戦闘力と、破壊力を持つ至高の存在。
だが、その強大な戦闘能力ゆえに、ひとたび暴走が始まったとき・・・それを止められるものはいない。

超兵器は我々にとって、それほど恐ろしい存在だった。
だからこそ、その力に惹かれたのだ。この世界でもっとも力を持つ超兵器を手にすることが出来れば―――

我々は、世界の王にもなれるのではないかと。

 そう、思ったのだ。







鋼鉄の咆哮1944  【混迷の渦の果てに】


プロローグ



1944年6月 台湾沖・第零遊撃部隊司令部



 驟雨が、大地を叩いていた。滝のような雨。夕立。あるいはスコールとも呼ぶ。
 遠くで雷鳴が轟いた。低く唸るような音と共に、刹那の光がともされる。瞬きは部屋の中に影を落とした。窓際に立つ男の顔が、光を受けて妖しく照らし出される。

 男は、謳うような口調で語り続けていた。


「この時期にこれほどの戦力をかき集めるのには苦労した。マリアナで決戦が始まろうという最中に戦艦を引き抜いていくのだ。上層部の反対は、それはもう恐ろしいものだった」

 窓際に立つ男の視線は、外に向けられたままだった。土砂降りの雨の先にある「何か」を見据えつつ、言葉を続ける。

「しかしその彼らも、あの艦の名を漏らしただけでみな一様に固まってしまったよ。まったく、あの艦が持つ力とは、大したものというほかはない。並みの兵器にこんな芸当はできはしない。あの艦のみがなしうる偉業だといっていい」
「・・・・・・」
「そうは思わないかね、ナギ司令」
 男の目がこちらに向けられた。
 その瞳を睨み返しながら、第零遊撃部隊司令官・ナギは、静かに応じた。
「そんな話をするために、こんなところまで遠征したわけではないでしょう。―――神大佐」

 男―――連合艦隊作戦参謀・神重徳は、口端を釣り上げた。


「ここで悠然と話を続けられるほど、大日本帝国の置かれた状況は楽観できるものではないはずですが?」
「ところがそうでもないのだよ、ナギ司令」
 神は薄笑いを浮かべて言った。
「なるほど、確かに現状は我が国に有利であるとは言い難い。10隻以上の空母と戦艦を擁する米艦隊を、その半数程度の戦力で撃退しなければならない状況は、祖国の窮地といってもいいだろう。それは認めよう」
「・・・・・・」
「だが、小沢中将率いる第一機動部隊は選りすぐりの精鋭部隊だ。装甲空母・大鳳を筆頭に、歴戦の空母部隊が敵を迎え撃つ。搭載機も新型を揃えた。練度もかつての真珠湾作戦の頃には及ばないが、敵艦隊を撃滅し得るものを持ち合わせている。不安要素は少ない。そう。何も心配することはないのだ。何も、ない」
「・・・・・・?」

 ナギは眉をひそめる。この物言いに、どこか奇妙な感じを受けた。・・・何だ?

「仮に機動部隊が破れたとしても、基地航空隊と戦艦部隊が残っている。これらの戦力をかき集めて決戦を挑めば、敵のマリアナ侵攻を挫くことは可能だろう」
 神は続ける。
「もしかすると、この作戦で連合艦隊は壊滅してしまうかもしれない。だがまあ、それもいいだろう。それもまた一興、だ」

 ・・・おかしい。その言い方では、海軍主力部隊の壊滅も許容することになる。
 これまでの戦闘で多くの主力艦を失い、米軍の侵攻をぎりぎりの一線で支えている帝国にとって、それは容認できない事態のはずだ。にもかかわらず・・・・・・何故?

 神の目が不気味に笑った。唇を異様な形にねじ曲げて、言う。
「そう不思議がることもないだろう。自分が拘束された段階で、答えは予測できているんじゃないのか」
 笑う。
「なあ、ナギ司令」
 神が迫る。
「分かっているんだろう―――」
 ナギの顔を覗き込む。
「我々が・・・いや、『私が』何を望んでいるのか」

 戦慄が走った。振り返る。窓を通した豪雨の向こう側―――そこに見える多数の帝国海軍戦闘艦。先頭に立つのは、マーシャル沖で再起不能の打撃を受けた戦艦・扶桑。そして彼女らが取り囲んだ中心に存在するのは・・・・・・超巨大双胴戦艦・播磨!

「まさか、帝国は―――」「その通りだよ、第零遊撃部隊司令官どの」
 神が微笑んだ。

 遠雷が、不穏な余韻を残す。
 電光が、微笑を浮かべる神の横顔を照らし出した。


「あの超兵器は我々が貰い受ける。これより播磨は、我々のものとなるのだ」


 それは、狂気に満ちた笑みだった。









第一話 【双胴の悪魔】

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