第一話 【その魔弾、驟雨の如く】





 空母「瑞鶴」艦上からも、異変は確認できた。毒々しく染め上げられた雲海。赤い。いや、紅いのか。分からない。だが禍々しい。恐ろしく不気味で、妖しく輝き・・・目が離せない。閃光が走った。白。あらゆるものを呑み込んでしまいそうな、それは刹那の光。

 目をまたたいた。光は消えていた。視力にも異常はない。だが―――

「なに」

 藤田二飛曹は声を上げた。あれほど艦隊を悩ませていた雨が、風が凪いでいる。そして何より・・・

「未確認大型機、接近!」

 見張りの叫びは、飛行甲板で駐機中のコクピットでも聞き取れた。
 少しずつ広がりを見せる晴れ間の中から、見たこともない巨大な航空機が飛び出してくる。数は、一機。だが―――

「・・・でかい」

 巨大航空機・・・というより、ここまでいくと飛行戦艦と言った方が近いかもしれない。比較対象が存在しないので大きさは推測するしかないが、どう控えめに見積もっても100メートルはあるのではないか。もしかしたら150はあるかもしれない。あるいは・・・それ以上。

「未確認大型機、なおも接近!距離・・・2万・・・」

 見張りの声には躊躇が含まれていた。無理もない。あまりの大きさに正確な距離が測れないのだ。戦闘機搭乗員である藤田にもそれが合っているのかどうか判別がつかなかった。その巨人機はさらに艦隊中央部を目指し、空を駆けて来る。風雨は完全に止んでいた。その頃には、不明機が見慣れぬ双胴形式であることまで見分けられるようになっていた。
 双胴機。珍しい形式だが、ありえない形ではない。先の欧州戦線では、オランダのフォッカーが双胴戦闘機を実戦に投入、ドイツ機と銃火を交えたとも伝え聞く。

「戦闘機なのか・・・?」

 藤田は言ってから自分の考えを否定した。高い機動性を必要とされる戦闘機があんなに大柄なわけがない。おそらく巨体を活かした超大型の爆撃機であるはずだ。
 藤田の考えは半ば的中し、半ば外れていた。

 ふいに大型機から閃光が走った。一度だけではない。三度・・・いや、さらに続いている。発光信号ではなかった。

「未確認機、発砲!!」

 弾着は正確だった。旗艦赤城が一瞬で水柱に包まれる。「ガンシップ!」
 水柱が晴れたとき、帝国海軍の誇る大型空母は爆炎に包まれていた。

 艦上拡声器から報告。

「総飛行機発動!甲板上の直掩機は速やかに全機発進、未確認機を追撃せよ」
「なんだって!?」

 藤田は前方で待機中の艦載機を見た。戦闘機二機。そのコクピットには彼の小隊長である高橋飛曹長と、僚機を努める飯田一飛曹がいる。飯田は長機を見ていた。小隊長は・・・得たりとばかりにうなずいた。藤田と飯田に向け、出るぞ、とサインを送る。

(本気かよ)

 彼等の小隊は、上空直掩隊として夜明けと同時に艦隊の防空を行なう手はずになっていた。だから危険を冒してまで、あの雨の中で暖機運転をしていたわけだが・・・ひとつ問題があった。風雨は収まったが、艦首が風に立てられていないのだ。通常、艦載機が空母から発進する際には、艦首を風上に立てる。これは合成風力を得て発艦を容易ならしめるためであり、これをやらないと発艦時に揚力が足りず、愛機もろとも海へ落下する恐れがあった。また、横風にあおられてバランスを崩すのを防ぐ意味合いもある。・・・それをなしでやれというのか。
 だが長機は恐れることもなく、管制官の信号に従って滑走を始めた。藤田の機体からも、整備員が車輪止めを持ち去っていく。もはや覚悟を決めるしかなかった。
 長機は見事に離艦してのけた。つづいて二番機が発艦。これもなんとか飛び立つことに成功した。

「行くしかない」

 腹をくくると、緊張は解けて消えた。入れ替わるようにして、赤城の仇を討つという闘志が沸いてくる。
 ブレーキを解除。フルスロットル。計器類は動作を確認済み。いくぞ。
 空母瑞鶴直掩隊、第一小隊は発艦に成功した。







 その間にも、敵大型機は砲撃を継続していた。無限に撃ち出される砲弾、そのことごとくが赤城の船体を包み込む。脅威の命中率。

 赤城は元々巡洋戦艦として建造されるはずだった。だが、様々な事情により、今はこうして加賀同様に帝国海軍屈指の大型空母として浮いている。飛行甲板は装甲化こそされていないものの、舷側の防御力は戦艦並といわれている。その赤城が今、燃えている。
 原因は格納庫の航空機だった。未明の出撃に備え、格納庫には全兵装を施された攻撃機、爆撃機が列をなしていた。その腹下には、最大の爆発物たる爆弾・魚雷が吊るされていた。空中から放たれた砲弾は飛行甲板を貫き、格納庫でその信管を作動させた。爆発。即座に付近の航空機が巻き込まれる。燃料が引火し、魚雷を誘爆に導く。
 赤城は燃えた。盛大に燃えた。誘爆が誘爆を呼び、火災が全てを焼き尽くす。塗料、ガソリン、木製の椅子机・・・。災厄というべきであった。赤城は、燃え続けた。



 赤城は加賀と共に一航戦を形成する。蒼龍・飛龍の二航戦と並び、それらは海軍空母部隊の精鋭と称えられた。一方翔鶴と瑞鶴が構成する五航戦は実戦配備どころか慣熟航行もろくにしていない新鋭艦から成っているため、搭乗員の技量も低い。歴戦の強者たる一航戦・二航戦からは「妾の子」と蔑まれ、真珠湾作戦の折には「足手纏い」という暴言さえ浴びせられた。藤田をはじめ、五航戦の乗組員・搭乗員は彼等に対し、ある種の敵意すら感じていた。

「それなのに今は・・・」

 赤城を襲撃した敵機に親の仇にも似た感情を抱き始めている。たとえ普段は厄介者扱いされていても、やはり彼等は同じ日本人だった。戦友だった。その戦友を打ちのめしたあの敵を、逃がしはしない。許さない。この太平洋の空から―――

「叩き落してやる!」

 想いは同じだった。被弾を免れた友軍空母から飛び立った戦闘機が、翼を連ねて巨人機を追う。30機近い戦闘機。たった一機で世界最強の機動部隊に刃向かったことを後悔させてやる!
 敵巨人機は艦隊上空を飛び抜け、西の空へ向かっていた。その巨体からは信じられないほど小さい半径でロールを打ち、再び空母に接近を図る。艦隊上空には多数の戦闘機が飛び交っているというのに・・・生意気な。長機が加速した。全速で爆撃機に立ち向かう。反航戦による一撃離脱。小隊長のそんな考えが読み取れた。飯田と三機編隊を組み、一気に巨大爆撃機に接近する!悲劇はそのときだった。
 巨人機の至るところから火箭がほとばしる!弾幕。そんな生易しいものではなかった。滝のような雨。驟雨。明確な殺意を持った炎の槍。長機はそれに捉えられた。胴体を撃ち抜かれ、翼をもぎ取られ、尾翼が四散する。燃料タンクに引火。爆発。高橋飛曹長はこの世から永遠に消えてしまった。

「小隊長!」

 次は二番機だった。飯田一飛曹。気さくな先輩で、地上に降りたあとはよく遊びに連れて行ってもらった。食糧庫からのギンバイを教えてくれたのも彼だった。その飯田機も、無数の弾丸から逃れることはできなかった。操縦席、発動機からアンテナまで、およそ弾の当たらないところはなかった。炎上する機体。脱出は期待できなかった。彼もまた、永久に会うことができない存在になってしまった。
 それを見て怖気づいたわけではなかった。本能・・・直感というべきだろう。考えるよりも早く、操縦桿を倒していた。フット・バーを蹴り、空地が瞬時に入れ替わる。火箭が機体をかすめた。被弾。衝撃。・・・無事だ。まだ生きている。一旦離脱を決意。この弾幕に安易に飛び込むのは自殺行為といえた。







 すでに標的は友軍機に移っていた。敵大型爆撃機はすさまじい密度で銃弾をばらまき、迎撃に向かう戦闘機を火達磨に変えていく。尋常な発射速度ではない。機銃の数も半端ではなかった。友軍機は次々と爆撃機の繰り出す火箭に捉えられ、撃墜されていった。

「なんてやつだ・・・」

 もはや仇を討つなどという戦意はとっくに失われていた。愛機は被弾により速力も低下している。どうにか敵の砲火から逃れることはできたが、追撃は困難だった。しかもあの大きさでありながら、敵はかなりの高速を発揮していた。400ノットか、あるいはそれ以上の超高速。戦闘機よりも速い爆撃機。いつだったか、そんなフレーズが世界中で流行ったこともあった。英国のブレニム爆撃機、祖国では九六陸攻。200ノットオーバーを目指した高速機。戦闘機の護衛なしで任務を遂行できる究極の爆撃機。
 こいつはまさにそれだった。戦闘機よりも速く駆け、独力で直掩を突破し、強力な火力であらゆる存在を火球に変える。名は何という?この驟雨の魔弾を撃ち放つ最強の爆撃機の名は―――

「双胴の悪魔・・・!」

 死神が鎌を振るった。天空を支配する悪魔から再び魔弾が放たれ、友軍艦艇を押し包む!海が沸騰した。数百を超える弾丸が海面を叩き、海水が高く舞い上がる。滝さながらの火箭の奔流。濃密な光が二航戦を襲った。爆撃機は高速で艦隊上空を駆け抜けた。機体下面から流れる砲弾が、執拗に空母を叩き続ける。
 空母は走る火薬庫とも呼ばれる。艦内に大量のガソリンや爆弾を抱えているからだ。それを守るはずの装甲は薄い。甲板を貫き、弾薬庫に達した砲弾がその力を解放する。最初に飛龍が、そして蒼龍が火柱を噴き上げた。どう控えめに見積もっても大破・・・2隻が助からないことは想像がついた。二航戦は壊滅した。

 黒煙が晴れ間を埋め尽くす。あたりは再び暗雲に染められた。









第二話へ

鋼鉄の小説トップページ
トップに戻る



低金利でお得なローン探し そろそろ結婚適齢期??? 過払い金の回収ならこちら
[PR] | 店舗デザイン監視カメラ浦和熊谷木更津新橋中国SEO対策消費者金融車 買取テンプレート沖縄旅行免許合宿二輪引越しプレゼントゴルフ会員権留学レーシックマッサージFXアフィリエイトFXホームページ制作デイトレードハワイ旅行タイバンコクハワイ レンタカーベスト ハワイ ホテル レーツバリ島Hawaii hotelsHawaii Activitiesbhhrハワイホテルテキスト広告
【運営会社「パラダイムシフト」サービス】 ハワイ現地オプショナルツアーリラックマ) - ビジネスクラス航空券 - 格安航空券(1) - 格安航空券(2) - 海外ホテル - 韓国旅行 - タイムシェア - ホテル 予約
無料ホームページ - 携帯ホームページ - 無料ホームページ作成 - レンタルサーバー - ブログ - ヴィラ - ハワイ コンドミニアム - バリ島 ホテル - プーケット ホテル - レップチェッカー - 海外旅行 - 国際電話 - ホノルルマラソン - 掲示板監視 - 誹謗中傷 - 宿泊料金比較 - ノースウェスト 航空券 - 旅館